条文
解説
第一項
賃金支払の5原則のうち、通貨払の原則、直接払の原則、全額払の原則を定めている。
通貨払の原則の例外
「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合」とあるが、現在法令で定められているものはないため、労働協約に定めることが必要となる。
労働協約の定めによって、通貨以外のもので支払うことが許されるのは、その労働協約の適用を受ける労働者に限られる。
「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」については、労働基準法施行規則第七条の二に規定されている。
直接払の原則の例外
賃金を、労働者の代理人等に支払ってはならない。
労働者が賃金債権を譲渡した場合であっても、賃金債権の譲受人に対して支払ってはならない。
ただし、本人が病気であるときなど、妻子等の使者(賃金を本人に支払うのと同一の効果を生ずる者)に支払うことは差し支えない。
派遣中の労働者の賃金を派遣先の使用者を通じて支払うことについては、派遣先の使用者が派遣中の労働者本人に対し、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、当原則に違反しない。
全額払の原則の例外
「控除」には相殺も含むとされ、使用者が労働者に対して有する債権と賃金を、使用者側から一方的に相殺することは許されないとされている。
労働者の自己都合による欠勤、遅刻、早退等の欠勤控除は、上記の控除に当たらず、労働の提供がなかった限度で賃金を支払わないことは、当原則に反しない。
前月分の過払賃金を当月分で精算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであり、労働者の経済生活の安定を脅かすほどのものではなく、当原則に反しない。
「法令に別段の定めがある場合」とは、所得税や地方税の源泉徴収、社会保険料の源泉控除等を指す。
「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合」とは、労使協定の締結を指す。
労使協定の締結により、賃金を控除しても、それが労働者の完全な自由意志によるものである限り、労働基準法に対する免罰的効力を有する。
ただし、労使間での賃金の支払に関する契約ではないため、実際に賃金から控除するには、就業規則や労働契約等でその旨を定める必要がある。
以下の端数処理は、当原則に反しない。
- 1箇月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満の端数を切り捨てて、それ以上を1時間に切り上げること
- 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額の総額の1円未満の端数を四捨五入すること
- 1箇月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額の1円未満の端数を四捨五入すること
- 1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)の100円未満の端数を四捨五入すること
- 1箇月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に生じた1000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと
第二項
賃金支払の5原則のうち、毎月1回以上払の原則、一定期日払の原則を定めている。
たとえ年俸制であっても、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要がある。
「一定の期日」とは、その日が特定されることをいい、支払日を毎月○日や月の末日、週給の場合は金曜日と定めてもよい。しかし、第3金曜日などとすることは特定したことにならず認められない。
所定支払日が休日に当たる場合、その前日に払うこととしても、翌日に払うこととしても差し支えない。
「臨時の賃金等」は、具体的に以下の通りである。
- 臨時に支払われる賃金
- 賞与
- 1箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
- 1箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
- 1箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当
賞与は、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであり、その支給額が確定されていないものを指す。
したがって、年棒制で毎月払い部分と賞与部分を合計し、あらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は、臨時の賃金等に該当しない。